2012年8月17日金曜日

腕貫探偵はどんな相談にも応じます

「腕貫探偵」 市民サーヴィス課出張所事件簿
西澤 保彦

単行本: 255ページ
出版社: 実業之日本社
ISBN-10: 4408534773
ISBN-13: 978-4408534770
発売日: 2005/7/16

「市民サーヴィス課臨時出張所」という貼り紙した簡易机で受付をしているのは、マネキン人形のように無表情な男。銀縁メガネに、白いシャツ、両腕に黒い腕貫をはめた職員。あるときは大学の構内、病院、またあるときはアーケード街に設けられたこの臨時出張所に、引き寄せられるようにやってくる相談者はさまざまなトラブルを抱えている。殺人? 詐欺? 行方不明? ミステリアスで厄介な相談事を、受付で話を聞くだけで見事に解決する、明晰な推理力をもつユニークな安楽椅子探偵が登場した! ユーモア溢れる痛快ミステリー連作短編集。

<腕貫探偵登場>

蘇甲純也(そかわ・じゅんや)=大学生
 純也が住む学生マンションの上階に住んでいる大学の先輩が不審な死を遂げる。バス停でこと切れていた先輩だったが、交番に通報に行っている間に、マンションの部屋に戻っていたのだ。
 大学の事務室の前で、「櫃洗(ひつあらい)市の市民サーヴィス課臨時出張所」と書かれた貼り紙をつけた折りたたみ式の簡易机に座る、事務用の腕貫をつけた細身の男。かれに相談すると、その答えは、「診察券を探せ」というのだった・・・

<恋よりほかに死するものなし>

筑摩地葉子(つくま・ようこ)=大学生
 葉子の、もうすぐ60歳になろうという母親が、再婚すると言い出した。だが、最近なにか不調だ。嬉しいはずなのに、精神的にまいっているらしい。どうして?
 病院の受付の前にいた、市民サーヴィス課臨時出張所の腕貫の男に相談すると、「卒業アルバムをもう一度見てみたら」・・・

<化かし合い、愛し合い>

門叶雄馬(とかない・ゆうま)=モデル・宝石販売業、完利穂乃加(しとり・ほのか)=正体不明の美女
 浮気癖が治らない雄馬だが、あるきっかけで穂乃加との仲が元にもどりそうだと、うれしくてしようがない。
 その嬉しさを誰かに分かってもらいたくなり、たまたまアーケード街に机をおいて受付を始めていた腕貫の男に説明していると、突然、男は「もうすぐ警察が事情聴取にくる」と言い出し・・・


<喪失の扉>
武笠寿憲(むかさ・としのり)=元大学事務職
 定年を迎えた寿憲は家の押し入れから、20年も前の、年度ごとに更新して返却された学生証の束と、履修表のコピーを発見。だが、その理由がわからない。ちょうど今の家内がまだ学生のころだ。前の妻が交通事故で亡くなる前のことだが、何のためにこんなものを残していたのか?
 その一部始終を、知り合いの経験だが、とだましつつ、雑居ビルの玄関に机をおいた腕貫の男に相談してみると、その答えは・・・

<すべてひとりで死ぬ女>

氷見(ひみ)刑事、同僚の水谷川(みやかわ)刑事
 ふたりの刑事がでくわしたのは公園のトイレで殺された売れっ子作家の死体だった。刑事たちはその直前、近所の有名レストランでその姿を見ていた。作家はおかしなそぶりをしていたことを思い出す。だが、なぜ殺されなければならなかったのか。犯人はいったい?
 氷見刑事は櫃洗南署の受付の横で、簡易机に貼り紙をした市民サーヴィス課の腕貫の男についつい相談してしまう。男は「レストランでの行動がすべてを物語っている」と・・・

<スクランブル・カンパニィ>

檀田臨夢(まゆみた・のぞむ)=営業企画一課、螺良光一郎(にしら・こういちろう)=総務部、目鯉部怜太(まりべ・りょうた)=営業企画一課
 檀田は、鬼畜兄弟とあだ名される螺良と目鯉部に付き合わされ、社の美人OLとの飲み会に参加する。
螺良と目鯉部は女性をナンパしてはお互いの部屋を交換してそこで関係を持つというやり方で遊び歩いていた。そして今回の飲み会の相手は社でも名高い営業四課の美女ふたり。風邪気味の檀田はその美女のひとり玄葉敦子(くろは・あつこ)に介抱されて、一夜を共にするという光栄に俗する。だが、その裏でなにかが起こっていた。その後、鬼畜兄弟はふたりとも盗品売買の疑いで逮捕されてしまったのだ。
 なにか釈然としない檀田は、会社のエントランスに机を構えた腕貫の男に相談する。この件には会社の美女ふたりも関係していたのではないか、と切り出したが、腕貫の男は「いや、営業四課の全女子社員が関係していた」と・・・

<明日を覗く窓>
 蘇甲純也は友人にたのまれ、有名画家の個展の後片付けを手伝うことに。新櫃洗会館の画廊へ出向くと、そこには筑摩地葉子も来ていた。葉子の姉の友人だというカスミが美術専攻の大学院生で、個展の関係者だったのだ。カスミの指示のもと、個展の片付けをつづけていた純也たちだったが、最後の最後になって、作品を収納する箱が一個余ってしまう。箱の表に書かれているタイトルの作品にも、誰もが心当たりがない。
 不思議な思いを持ちながら、カスミにもらった喫茶店のサービス券でお茶を飲もうとシティ・ホテルのラウンジに向かった純也と葉子は、そこで腕貫の男を発見する。腕貫の男はふたりが以前に相談に来たことを覚えていて、今回の箱が余った件についても「それは当人の気持ちの問題です」と・・・

 ご覧のように、登場人物の名前がややこしい。何度か出だしに戻って読み方を確認せねばならない。

 2005年の発表だが、昨年(2011年)末にこの本が、続編がことしの6月にそれぞれ文庫化され、またまた話題に。ということは近々新しい本がでるのかも。
 ひとくせもふた癖もある本格派の著者の手に踊らされる6編。
 続いて残業編も確保してあるので、さっそく読まなくては。
 

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