2012年3月3日土曜日

裏閻魔は人を救えるのか


「裏閻魔」  
中村 ふみ

単行本: 473ページ
出版社: エイ出版社
ISBN-10: 477791870X
ISBN-13: 978-4777918706
発売日: 2011/3/4

「ゴールデン・エレファント賞」第1回〈大賞〉受賞作!壮大なスケールでおくる、超弩級エンタテインメント・ストーリー!!

時は幕末。
長州藩士・一之瀬周は、新撰組に追われて瀕死の重傷を負うが、刺青師・宝生梅倖が掌に彫った「鬼込め」と呼ばれる呪いの刺青で命を救われる。
周は不老不死の運命を背負うこととなり、明治から昭和へと激動の時代を刺青師・宝生閻魔として人目を憚るようにして生きていく。
傍らには常に、友人の遺児・奈津の姿があった。
その奈津を狙うのは、姉の仇で同じ鬼込めの技を持つもう一人の刺青師・夜叉。
少女だった奈津もやがて女として閻魔を意識しつつ、純愛を貫きながら彼の年を追い越し老いていく……

「ゴールデン・エレファント賞」とは……
日本の優れたコンテンツ・クリエーターによるオリジナル小説作品を発掘し、各国言語で世界にリリースすることを目的に2009年に設立された、国際的 エンタテインメント小説アワード。

序 安政6年(1859)長州 萩
 萩。ひとりの女が、橋の上で自殺しそうな若者に出逢う。周(あまね)の姉、一ノ瀬佐和である。「もし、死んではなりません」「ご心配なく、死ねませんから。それより、あなたのほうが死にたそうに見える。殺してあげましょうか」

第1幕 慶応2年~3年(1866~1867)久遠の獣
 幕末の京都。一ノ瀬周は長州のスパイとして新撰組にもぐりこんでいた。それが発覚し、同志の岡崎に斬られてしまう。瀕死の周を救ったのは彫り師(入れ墨師)の宝生梅倖。梅倖は周の掌に鬼込めの入れ墨を彫る。それは不死を約束する彫り物だった。そして周は閻魔としての生を生きることに。

 不死の一族が、ある時代を秘かに生き抜くというのはよくあるストーリー。
 なつかしの「ポーの一族」や、今なら「トワイライト・サーガ」かな。
 不老不死となった一ノ瀬周が明治という世を生き抜く、そこで描かれるのは、ひとつのラブストーリー。

第2幕 明治16年(1883)約束
 閻魔は彫り師として横浜で秘かに生き抜いて来た。あるきっかけで、新撰組時代に自分を斬った岡崎と出逢うが、岡崎は官憲につかまり、拷問を受けることに。彼を釈放させるために、警察の上部組織にいる牟田信正という警視の力を借りるのだが、結局岡崎はその怪我がもとで死んでしまう。閻魔と、岡崎の娘・奈津とのふたりの生活が始まる。

第3幕 明治23年(1890)横浜リッパー
 明治も半ばとなり、外人の新聞記者が闊歩する横浜。奈津は東京で医学の勉学に励んでいる。だが、横浜では連続殺人事件が発生、件の外人記者によればロンドンでも切り裂きジャックの事件が起こっていたという。
 それと呼応するように、閻魔の前に謎の美青年が現れる。それは維新の前に故郷の萩で姉を殺害した、もうひとりの不死人・宝生夜叉こと鬼月だった。夜叉は閻魔に挑戦してくる。

 こうして、不死のさだめを持つ二人が出会う。
 不死とはいえ、一瞬にして首を切り落とすか心臓を止めてしまえば、蘇ることはできない。あるいは、掌に込められた「鬼」を消すことが出来れば、たちどころに死ぬことになる。
 ふたりの周りには、ふたりの実相を知る人たちも増えてくる。閻魔が救った元アル中の牟田信正は官憲という立場から閻魔の生活を影から支えることになる。
 ふたりの不死人に関わる奈津は、閻魔に想いをつのらせるが、閻魔は奈津を不死の運命に誘いこむことに強い抵抗を感じ、ついつい距離をおくことになる。
 それぞれのジレンマがもどかしい。

第4幕 明治28年(1895)白日夢
 ベースボールの観戦に出向く奈津。誘ってくれた学生はどうやら奈津に気があるようだ。
 かたや閻魔は、ある貴婦人の屋敷に囚われの身となり、貴婦人に彫り物をせがまれる。好きだった男をあきらめることが出来るような「鬼」を込めろというのだ。この女も牟田からの紹介だった。
 囚われの閻魔は衰弱し、朦朧とした意識のまま彫り物を続ける。そこで事件が起こる・・・ 
 かたや、プロポーズを受けた奈津はそれを断ってしまう。自分の心はとうに分かっていたのだ。

第5幕 昭和20年(1945)百年の夜明け
 閻魔も夜叉も混乱の世を生き抜いてきた。
 奈津は70代なかばの女医として、焼け野原と化した東京を駆け回る。
 閻魔の前に若い画家が現れる。病弱な彼に好意をもった閻魔は、その掌に不死の鬼を彫り込んでしまう。
 画家は兵隊となって戦地に赴き、負傷して帰国する。片手と左目を失ったがその目がいつか再生していた。それをかくして秘かに生き抜いていたが、負傷兵として故郷の長崎へ帰っていく。夜叉も何年か前から長崎で生活していたが、そこで起こるのは・・・

 最後の対決は長崎の、廃墟となった灯台が舞台となる。夜叉が持ち出した菊一文字の刀が、閻魔こと一ノ瀬周に、武士としての昔を思い出させ、明治からここまでの歳月が夢のように思えてくる。

 さて、冒頭にあるように、この作品はゴールデン・エレファント賞の受賞作。日米中韓の同時リリースだそうな。
 作者の中村ふみさんは1961年生まれの秋田に暮らすおばさん。
 たっぷり面白さがつまったエンタメ小説はこんな人から生まれてくる。
 

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