2011年3月12日土曜日

滅びゆく人類が最後に託したもの。久方ぶりのSFに酔う

「華竜の宮」
上田早夕里著

単行本(ソフトカバー): 592ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4152091630
ISBN-13: 978-4152091635
発売日: 2010/10/22

3月11日「2011年東北地方太平洋沖地震」発生。
亡くなられた方、ご家族ご親戚の方々にはお悔やみを、被害にあわれた方にはお見舞いを申し上げます。
TVで報道される津波の映像、燃え上がる夜の街には背筋が凍る思いがします。15年前の阪神淡路大震災よりも大規模な、列島のほぼ半分以上を巻き込んだ被害に慄然とするばかりです。



さて今回の作品は、昨年の「SFが読みたい」で2010年の日本作品第一位に輝いた傑作。
長い。2段組み590ページ。
そして舞台は、地球的な規模の地殻変動で現在の標高260メートル以下の地域が水没してしまった地球。今回の津波以上の災厄が人類を襲ったわけ。
人類は海中でも生活できるように遺伝子操作によって改造された海上民と、ブローブによってアシスタント知性体と結ばれた陸上民とに分かれて文明を維持している。
世界は残された地上部分とかつての首都の海上に築かれた海上都市で構成されている。
その世界の捉え方がSFだ。見事なまでに細部の構築がなされている。こういう世界を作り出せた作者の力量には感嘆、そしてそれが女性だということで納得。


主人公と呼ぶべきか、中心になって世界をまとめていこうとするのは青澄セイジ。彼のパートは彼のアシスタントである人口知性体のマキの一人称によって語られる。それが効果を出して、読者はセイジに感情移入していく。
海上民の女性オサであるツキソメや、汎アジア連合の代表者など、政治的な動きをまとめ、アクション部分はセイジが身を以て努めている。


世界が陸上民と海上民の和解に向けて動き始めたとき、新たな災厄が人類に襲いかかる。
そのとき科学者たちがとった行動は、まさにSF。
センスオブワンダーとはこのこと、ラストで身震いするのは昔からのSFファンだった爺だけではあるまい。


災厄を乗り越えて生き抜いて来た人類が託す最後の夢。
2011年の津波の災厄を乗り越えていく日本人に希望を!


 

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